◇ 全中「ごはん・お米とわたし」コンクール、総理大臣賞・作文「当たり前のご飯のありがたさ」
2024/12/04/ 11:00
全中は12月2日、第49回「ごはん・お米とわたし」作文・図画コンクール入賞作品を発表した。全国の小・中学生らが対象で、「毎日のごはんでおいしかった思い出や、家族とのコミュニケーション」など「ごはん・お米」にまつわる作文・図画を募集していたもの。作文部門2万7,609点、図画部門4万1,104点の応募があり、審査の結果、内閣総理大臣賞(2名)、文部科学大臣賞(6名)、農林水産大臣賞(6名)、全国農業協同組合中央会会長賞(6名)、優秀賞(90名)、学校奨励賞(14校)を決めた。
今回、内閣総理大臣賞に輝いたのは、作文部門が若宮遙希さん(青森・青森市立浦町中学校2年)の「当たり前のご飯のありがたさ」、図画部門が山岡彩葉さん(京都・木津川市立恭仁小学校1年)の「おこめのさと」。「作文、図画ともに、稲作と米食が日本人の心や生活に大きく影響していることに気づき、日本の大切な文化として未来へと継承していきたいという思いが表現されている」という。表彰式は来年1月11日、東京・台東区の浅草橋ヒューリックホールで。
内閣総理大臣賞 作文部門
「当たり前のご飯のありがたさ」若宮遙希さん(青森市立浦町中学校2年)
小学校三年生の冬、僕が人生で初めてお米を研いだ日、弟が入院した。当時の僕は、父の転勤先である仙台市に住んでいた。小学校一年生の弟は母親に注意されながらも、寒い冬の中、毎日短パンで登校していた。そんな日々が続いた時、弟は突然高熱を出し、病院に行くと、インフルエンザと肺炎にかかっていた。そして緊急入院することになった。病院は親が二十四時間付き添う必要があった。
児童館のお迎えに間に合わないと母から連絡が入ったようで、僕は一人で児童館から家に帰った。誰もいない家の鍵を一人で開け、真っ暗な部屋に電気をつけ、わざと大きな音を出してテレビをつけた。病院から一旦帰ってきた母に、
「僕にできること何かある?」と聞くと、
「お米研いでくれたら嬉しいけど…」
「うん、できるよ!」今、思えばなぜできると言ってしまったのだろうか。忙しい母と苦しんでいる弟の為に何か僕にもできることがないだろうかと思っていたからだろう。
「ありがとう。助かる」と言い残し、慌ただしく買い物に行ってしまった。当時、スマホもなく自分で調べることもできなかった僕は、母のお米を研いでいる姿を思い出し、研ぐことにした。
お米はカップに三回分(三合)。家庭科で「すりきり一杯」を習う前の当時の僕は、適当に山盛り三回分のお米を取り、そのお米と水を釜に入れ、研いでみた。母の研ぐような「ジャッ、ジャッ」という音がしない。水が多すぎると気づき、ジャーっと水を捨てたら、お米も勢いよくたくさん出てきてしまった。今度は少なめの水で研いでみると「ジャッ、ジャッ」という音になり安心した。一体これは何回やるのだろう。とにかく何度も研いでは水を入れて、捨てて研いでを繰り返した。三十分は経っただろうか。十回以上やっても水には少し白い色がついてくる。(これ、いつまでやるのかな)いつまでも少し濁る水を見て、真冬の台所で冷たい水で手が真っ赤になり、水を流す度にこぼれていくたくさんのお米を見ながら、僕の目からも涙がこぼれた。
母がやっと買い物から戻り、僕の姿を見た時、僕の冷たい手を母は両手で包んでくれた。「ありがとう、ごめんね。」と泣きながら包んだ母の手も僕と同じくらいに冷たかった。なぜ、母は泣いているのだろう。もしかして、弟の具合が悪いのだろうか。怖くて聞けないまま、頭の中でぐるぐる考えていた。
「ちゃんと教えてなかったのに、よくできたね。さ、炊けるまでの間にお風呂に入って。」
母が買ってきたそうざいと僕の初めて炊いたご飯で食べた二人だけの晩ご飯。いつも父とうるさい弟がいる食卓が今日はシーンとしている。お米はいつもより固くておいしくなかったが、母は「おいしくできたね」と言った。ご飯がおいしくなかった理由は他にもあることは当時の僕でもわかっていた。
弟の入院は七日目に突然終わった。入院中だった青森の祖母が亡くなったのだ。弟の病院に事情を説明し、安静にすることを条件に慌ただしく退院し、青森に向かった。祖母の死に目に会えなかった僕たちは、疲れと悲しみでいっぱいだった。こんなに悲しい時でもお腹は減った。誰かが用意してくれていた塩おにぎりを食べた。こんな時でもおにぎりをバクバク食べている弟を横目で見ながら、食欲が出た弟を見て嬉しく思った。久しぶりに家族揃って食べたおにぎりはとてもおいしかった。家族四人が当たり前ではなかった七日間を経て、当たり前に食べられるご飯のありがたさとおいしさを知った。
今は時々手伝いでお米を研ぐ。お米を研ぎながら、僕は当たり前のありがたさを時々思い出している。これからもおいしいご飯を毎日食べられますように。
内閣総理大臣賞 図画部門
「おこめのさと」山岡彩葉さん(京都・木津川市立恭仁小学校1年)