◇ 第12回「米産業懇話会」、全米販山﨑理事長自ら「米穀流通2040ビジョン」報告

 (一財)農政調査委員会(吉田俊幸理事長=高崎経済大学名誉教授)は8月19日、都内で第12回「米産業懇話会」を開いた。今回は全米販(全国米穀販売事業共済協同組合)が去る6月12日に公表した「米穀流通2040ビジョン」を、山﨑元裕理事長(㈱ヤマタネ代表取締役会長)自ら報告した。このなかで山﨑理事長は、米穀流通業界の「失われた30年」を指摘。その上で、先を見た「打ち手」の数々を力説した。
 「米産業懇話会」は、有志によるかつての「米流通研究会」を発展的に解消、発起人の一人だった松本裕志氏(元全国米菓工業組合専務)が籍を置く農政調査委員会が事務局を務め、活動再開したもの。改正なった食料・農業・農村基本法に基づく新たな基本計画の策定に向けて、民間レベルでの提言をめざしている。

 ○「米穀流通2040ビジョン」を検討するきっかけは、令和4年(2022)12月9日に開かれた食料・農業・農村政策審議会の第5回基本法検証部会に提出された資料だった。このなかで農林水産省は、令和2年(2020)704万tの主食用米需要量が、20年後の令和22年(2040)には493万tにまで減少すると試算している。将来推計は星の数ほどあれど、農水省が「主食用米需要量が500万tを切る」という展望を打ち出したことは大きい。「もう米は作らなくていいから、畑に切り替えていこう」というメッセージと受け取らざるを得なかった。
 ○ 全米販は、米卸の全国団体。組合員のなかには、規模の大小の違いもあれば、株式会社も組合もある一方、消費地に軸足を置く組合員もいれば、産地に軸足を置く組合員もいる。得手不得手も様々だ。しかし、およそ20年先の業界の展望、ビジョンは共通なはず。そこで、需要量が500万tを下回る2040年の米穀流通とは、どのような状態か。それは容認できる姿か否か。容認しがたい場合には対策を講じる必要があるので、判断の手助けとして未来予想図/ビジョンを創ることにした。
 ○ つまり、あくまで組合員のために策定するのが当初の目的だった。出来あがった「米穀流通2040ビジョン」では、〝最悪の予想図〟である「現実的シナリオ」と、〝魅力的な米穀流通〟の姿を描いた「野心的シナリオ」の二つを表した。このうち「現実的シナリオ」では、2040年の主食用需要量を2020年比▲41%の「375万t」と弾き出し、「2030年代には国内需要量を国産だけでは賄いきれなくなる可能性がある」と、まさしく〝最悪の予想図〟を描き出した。
 ○ 実は公表前、現役の農水省職員や、幹部OBに見ていただいたことがあったのだが、お叱りを頂戴した。「国の方針に逆らうのか」と。しかし片や農水省は、今回の基本法改正に伴い、新法「食料供給困難事態対策法」も公布している。動きは2段階。「食料供給困難兆候」は、「特定食料の安定供給の確保のために措置を講じなければ食料供給困難事態の発生を未然に防止することが困難になると認められる事態」で、「食料供給困難事態」は、「特定食料の供給が大幅に不足し、または不足するおそれが高いため、国民生活の安定または国民経済の円滑な運営に支障が生じたと認められる事態」。「特定食料」とは、米、小麦、大豆、その他植物油脂原料、畜産物、砂糖の6品目。段階に応じて国が出荷調整や生産促進を命じ、従わなければ罰則まである。しかし同じ農水省が「主食用米需要量が500万tを切る」という展望を打ち出し、「もう米は作らなくていい」とのメッセージを発した。どっちなんだ、ということになる。

 ○ 私がこの仕事に就いた頃、およそ30年前は、「米の需要量は1,000万t」と教えられた。時はまさに食管時代であって、価格は生産者米価と消費者米価との逆鞘で成立していた。それから30年。食管は廃止され、米穀流通は民間に「戻された」わけだが、それまで逆鞘で成立していた商品から、すぐさま利鞘をとれるはずもなく、営業利益率で1%とれれば合格というおかしな世界になってしまっている。
 ○ 自嘲を込めて言えば、私ども米卸は、非常に近視眼的な物の見方しかして来なかった。せいぜいRY(米穀年度)単位で勝ち負けだけを競う業界。先を見ない業界。自社努力ではなく産地銘柄に寄りかかった商売。この間、新規参入業者もいたはずだが、薄利の割にリスクが巨大で、しきたりも数多い業界に対し、撤退していった業者も数多いのではないか。「失われた30年」とは、この業界にこそ言えることだ。
 ○ 話を戻すと、「米穀流通2040ビジョン」では、〝最悪の予想図〟である「現実的シナリオ」と、〝魅力的な米穀流通〟の姿を描いた「野心的シナリオ」の二つを表した。このうち「現実的シナリオ」で、まさしく〝最悪の予想図〟を描き出したわけだが、もちろん、受容できるものではない。そこで「現実的シナリオ」を撥ね除けるため、〝魅力的な米穀流通〟の姿を描いたのが「野心的シナリオ」だ。そこへ向けて、私どもで「打ち手」と呼んでいる施策を展開していく。この「打ち手」は、大きく3つの分野に区分できる。
 ○ 第1に、対・産地。といっても〝契約〟という概念は、私ども中間流通と産地との間では馴染まない。契約ではなく、「手を繋ぎあっていく」行為と考えていただきたい。手前味噌になるが、ヤマタネでは、10数年前から、産地と手を繋ぎあう取組みを行ってきた。
 ○ 第2に、対・流通とでも言うべきか。玄米、精米からの脱却だ。求められているのは原料としての玄米でも精米でもなく、「おいしいごはん(米飯)」であるとの認識に立つべきだ。言い換えれば銘柄信仰からの脱却にあたる。かつてビール会社が素晴らしいキャッチコピーを掲げていた。「エビスあります」。まさしくこれだ。「魚沼あります」――魚沼神話を作りあげてきたのは、関東の米卸だったのではないか。しかもそこに寄りかかってしまった。これを覆すためには、おこがましい言い方ながら、「消費者教育」が必要になる。考えてもみていただきたいのだが、仮に茶碗一膳70gが(外食などで)100円だとすれば、単純計算すれば60㎏は7万円になってしまう。こうしたことにご理解いただくところから、「消費者教育」が必要になる。また米由来商品の開発も必要になる。例えば米粉は、小麦粉代替としてしか捉えられていないが、何も食品だけである必要はない。古くは化粧品、最近ではプラスチック原料にまで使われるようになってきた。
 ○ 第3に、対・同業者だ。勝ち負けだけの相手から、互いに手をとりあう関係へと深化しなければならない。具体的には、共同精米や共同物流が考えられる。一言で「協働」と表現しているのが、この同業者間の打ち手だ。
 ○ 以上に少しずつ取り組むことで、「野心的シナリオ」に近づけていけば、少なくとも〝最悪の予想図〟の実現だけは避けられるのではないかと考えている。

〈続〉

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