◇ 全米販記者会見①「米穀流通2040ビジョン」  

 全米販(東京都中央区、山﨑元裕理事長)は6月12日、東京・小伝馬町の食糧会館で、総会後の定例会見を開催した。内容を連載で詳報する。まずは、全米販が昨年度から策定に取組み、同日一般に初めて公表した「米穀流通2040ビジョン」について。

 〇「米穀流通2040ビジョン」を検討するきっかけは、令和4年(2022)12月に開催された、農林水産省の食料・農業・農村政策審議会「第5回基本法検証部会」で配布された資料です。「2040年には、主食用米需要量が500万tを切る」という展望が書かれています。読みようによっては、「もう米は作らなくていいから畑に切り替えていこう」というメッセージが組み取れたところです。令和2年(2020)時点で704万tだった主食用米需要量が、20年後に500万tを切るとなると、生産から流通事業者、そしてエンドユーザーまで、米の流通経路は、今まで通りの形で進むわけはありません。
 
〇 私がこの仕事に就いた頃には、米の需給は1,000万tと言われていました。それが2040年には、半分の500万tを切るというのです。また、変に「もう水田を守らなくていいですよ」というメッセージが届くと、農家の方々の離農を後押ししてしまうかもしれない。そうなれば、20年後には500万tどころかもっと減るのではないか、という恐怖感を感じました。
 今まで多くの我々米穀流通業者は、自嘲を込めてお話すれば、近視眼的な性格をしていました。つまり、足元に集中していて、あまり先を見てこなかったということです。例えば、今日・明日の米相場について一喜一憂したり、せいぜい米穀年度単位でも来年度、翌年度ぐらいまでしか見えてなかった。しかし、「もしかしたらそうなるかもしれない未来予想図」を掲げた時に、今まで通り近視眼的に今日の仕事を続けていき、20年後の2040年を迎えて良いのか。「多分ダメだろう」と思ったわけです。

 〇 我々の組合員のなかには、消費地に所在している卸企業も、産地に所在している卸企業もあります。規模の大小も、得手不得手も色々あります。皆さんそれぞれ事業の進め方は異なって当然です。ただ、20年先の米流通に関してのビジョンというのはおそらく共通だろうと思うわけです。共通のビジョンを持ちながらも、それぞれの立ち位置、持ち味によって、そこに向かっていく計画の仕方、経営の手法というのは異なってきます。このビジョンを見て、「これでいいじゃない。許容できるよ」というのであれば、そのまま行けばいい。「いやいや、看過できる状況ではないだろう」となったら、それぞれの方が手を打てばいい、という風に考えて、共通のビジョンを作ることにしました。
 そこで、去年の5月の理事会で㈱日本総合研究所さんにお願いすることを承認をいただき、動き始めました。ただし、日総研さんにお願いして成果物を買い取るだけではあまり意味がありませんので、組合員企業でワーキンググループを作りました。会社のある地域もバラバラのメンバーです。年齢は2040年にも業務に従事されてるであろう、比較的若い方々にお集まりいただきました。そして討議をしたり、あるいはヒアリングの時に日総研さんについて行き横で学んだりしながら、 およそ1年かけてビジョン策定を進めてきました。

 〇 ビジョンの目的について説明します。先ほども申し上げた通り、米卸企業は、近視眼的な思考が多かったものですから、そこから「先を見た、腰を据えた取組みへの転換」、これを促したいと考えました。農水省からは、失礼な言い方かもしれませんが、生産者または実需者を巻き込んだ、「複数年契約の促進」を後押しされています。ただ、我々の業界、とくに生産者との間では「契約」という言葉がなかなか馴染まないところがあります。契約という言葉通りに進むはちょっとまだ難しいかと思いますが、言うならば、「共同開発、共同作業、協業の取組み」を始める必要があると考えています。今年あるいは来年の売買の話だけではなく、生産サイドと一緒に先を見た取組みを始めていくべきだろうと思うわけです。
 もちろん既に取り組んでいる卸企業も沢山いらっしゃいます。一方では全く手が出せてない方もいらっしゃる。そういう方々に対して、「少しずつでもいいので、産地、あるいはエンドユーザーの方々、実需の方々を巻き込んだ取組みを始めましょう」と呼び掛けたいと思います。自分たちの「購買ルート」の感覚ではなく、一緒に取り組む、 自分たちがユーザーに届ける米を、生産者とともに一緒に手当てしていくという発想に切り替えてもらいたいと思っているわけです。

 〇 先ほどから繰り返している「近視眼的」という話でいえば、そもそも向かう先も分からずに歩いてるわけですから、たまに目を上げた時にどこを歩いているか分からなくなる、あるいは同じところを結果的にぐるぐる回っているだけかもしれません。もう少し洞察力を高めて、進むべき方向を見定めた上で進んでいきましょう、ビジョンを持った上で、バックキャストで考えてみませんか、という提案です。 例えばですが、生産者とのやり取りでいえば、A社よりB社のほうが1俵あたり50円高く買ってくれるからB社に売った…そういうことがこれまでの商売です。でも、それをしていてもお互い落ち着かないし、(産地との)信頼関係もできない。それよりも、一反あたりの収入やコストで考えませんか、という話を生産サイドにお伝えしてきているつもりです。
 一方で、我々自身も、「1俵いくら」とか「今年はいくらか」、あるいは「前年対比、前月対比でどうだ」という話にこだわってしまう。そうではなくて、今年はこんな感じの商売になるだろう、来年は、3年後、5年後はどういう風になってくんだ、そういう(長いスパンの)見通しがないと、それこそ複数年契約とは言わないけども、信頼関係に基づいた産地と一緒の取組みには進めないと思うんです。

 〇「米穀流通2040ビジョン」では、このまま進んでいったときに想像できる最悪の状況を「現実的シナリオ」として置いてあります。需給を年間10万t減らして、 農家の方もどんどん離農してしまって、このまま進んでいったらどうなるのか。我々の現場感覚からすると、需要の減少よりも生産量の減少の方が激しいです。その結果、2030年代には、国産米の需要量を生産量が下回ってしまうという現象が出てくると考えています。
  それから、こうなったらいいなという希望的な未来を「野心的シナリオ」として置いています。こんな未来になれば、米穀流通業界が魅力ある産業になれるのではないか、というものです。この「業界として魅力がある」というのは必要なんですよね。今、米穀流通業界で働いている我々にとっても、新規に就職する方々にとっても、「こういう未来があるなら米業界で働こう」と思えるようになることが重要だと思います。そのための積極的な将来図が「野心的シナリオ」です。
 多分、現実は「現実的シナリオ」「野心的シナリオ」どちらかになるのではなくて、間のどこかで落ち着くだろうとは思っています。また、これからも動き方によって変わっていくと思います。全米販としては、各組合員への努力や情熱でもって、なるべく魅力的な産業にするために進んでいきましょう、というメッセージを出すというのも目的の一つです。

 〇 さらには、我々「全米販」という組織自体の生き残り、という目的もあります。加盟組合員は、「全米販の存在価値はなにか、加盟する意味があるのか」、という目で見ています。それを「やっぱり全米販があってよかった」と思ってもらえる組織にしなければいけない。そのためにも全米販は、個社では対応できないことに、業界の団体として取り組むべきだと思います。例えば、役所や全農系統とのやり取りもそうかもしれません。一社一社ではなかなか難しかったり、対応しきれなかったりすることがたくさんあります。それを全米販として取り組み、組合員に還元していくということをしたいと思っています。ビジョンの策定もその一つです。
 繰り返しになりますが、ビジョン策定は本来個社個社やる必要があると思います。ただ、多分それぞれが作ったところで、結果的には似た話になる。ですので、そこに力を入れるのではなく、全米販が担って、皆で共有すればいい。それが存在意義に繋がっていくと考えています。

 〇 このビジョンは、実は今年3月に仕上がっています。皆さんへの公表は今日になりましたが、この間、組合員の方々への周知に時間をかけてきました。理事会でもご承認いただき、全ての組合員にお配りしました。 全米販では、全国地域ごとにブロック協議会というのが行われていますが、その場でも説明を行いました。
 私の感覚では、理事会にしろ、ブロック協議会にしろ、従来は非常におとなしかった。ところが、このビジョンをお出しした4月の理事会の雰囲気は全く異なりました。ブロック協議会でも質疑、異論もとても多かったように感じています。「本当にこんなに(『現実的シナリオ』のように)なるのか」という声が多かった。異論というのは、ごもっともな内容ですが、「需給が逆転する前に米価が上がる。米価が上がれば生産者がまた増えるだろう」というもの。とあるブロック協議会のメンバーで飲みながらの意見交換で出た指摘です。このビジョンきっかけで議論ができ、組合員企業同士がお話をしていただけるようになったことを「よかった」と感じました。

 〇 本日、この「米穀流通2040ビジョン」を皆様にお配りしました。この後はなるべく早めに、まず私どもに近い、生米(なまごめ)を扱う業界の方々に「こんなものを作りました」とお伝えしようと思ってるところです。それから、お酒など、米を扱う関連業界の方にもお渡ししたいですし、お取引いただいている量販や食品などユーザーの団体にもお渡ししていきたいと考えています。                                 《続》

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