◇ 農水省が令和6年度「農林水産祭」天皇杯など受賞者決定

 農林水産省は10月2日、令和6年度(2024)農林水産祭の各賞受賞者を決定、発表した。11月23日、東京・代々木の明治神宮会館で開く農林水産祭式典で表彰する。農林水産祭は「国民の農林水産業と食に対する認識を深めるとともに、農林水産業者の技術改善、経営発展の意欲を高めるため」昭和37年(1962)から実施しているもので、(公財)日本農林漁業振興会(会長=農林水産大臣)との共催。7部門ごと天皇杯、内閣総理大臣賞、日本農林漁業振興会会長賞を授与している。今年の受賞者のうち稲作関連は以下の通り。

〈天皇杯 農産・蚕糸部門〉
△㈱イカリファーム(滋賀県近江八幡市、井狩篤士代表、令和5年度《2023》全国優良経営体表彰)
「経営改善」の軌跡とパン用小麦の拡大に向けて(経営《水稲、麦、大豆》)
 水稲、麦、大豆の生産から流通・販売まで手がける大規模土地利用型法人であり、担い手不足の農地を積極的に受託している。作目ごとに利益率を算出し、社員にも収益を見える化して収量や売上の目標を立て、利益率の高い麦や大豆を主力に据えた経営が行われている。生産管理ICTツールを導入し、データを活用した栽培管理やマニュアル化による作業の効率化、トヨタ式「カイゼン」の導入により社員が無駄なく作業を行う環境づくりを行っている。
 パン用小麦の生産と販路開拓……給食パン製造会社との連携を契機にパン用小麦に切り替え、自社で乾燥調製施設と低温倉庫を建設し、集荷・乾燥・保管・検査・物流・販売までを自社で完結できる仕組みを作りあげた。他の参画農家の生産した小麦も含め、ロットごとの成分分析をもとに製粉会社の求める品質にブレンドするなどして、学校給食や大手コンビニエンスストアから原料として高い評価を得て、参画農家とともに所得向上を実現し、県内学校給食用パンは県産小麦100%に切り替わった。
 女性の活躍……井狩氏の妻、史子取締役が教員であった自身の経験を活かして人材育成を担うとともに、女性社員が能力を活かしてパスタや菓子等の加工品の開発、食育・農業体験イベントを行うほか、産休・育休の導入、労働環境整備を行い女性が活躍する場を積極的に創出している。
 普及性と今後の発展方向……当面15年後の目標を定め、ロードマップとして5年おきの売上、社員数、めざす姿を社員と共有している。生産部門では、「小麦王国」の実現に向けパン用小麦のさらなる面積拡大、収量の増加を図る方向である。これを実現するため、人材育成を重要課題に据えて技術向上の取組や労働安全対策、ICTの導入による生産効率の向上をめざしており、組織の活性化と地域農業の発展に向け活躍が期待される。

〈内閣総理大臣賞 多角化経営部門〉
△㈲川口グリーンセンター(宮城県栗原市、白鳥正文代表、第53回日本農業賞)
良食味米の用途拡大で雇用を創出し、中山間地農業を未来へつなぐ(経営《水稲、スプレー菊》)
 平成13年(2001)設立、条件の悪い圃場も引き受けることで地域の信頼を得ていった。現在は、ICTと省力技術の導入による作業効率の向上により金田地区の水田経営約300haのうち79.5haを担う中核的担い手として活動している。令和2年(2020)から海外でおむすび販売事業を展開する事業者と連携し、輸出米生産にも取り組んでおり、令和4年(2022)は約10tをアメリカへ輸出した。
 付加価値を高める販売展開で水稲部門の規模拡大……金田地区は、山間地域のため水が冷たく、また、排水が悪く、転作で大豆等栽培しても生産性が低い地域であり、収量は県平均より低い10a480㎏を目標としている。一方、朝晩の気温の較差、清らかな水を生かして、県内でも有数の良食味米の産地となっている。JGAP認証を取得したことで、さらに「米」の付加価値を高めてきた。現在では、直接販売を積極的に進めており、ネット販売や通信販売を拡大している。
 経営を多角化し、雇用の創出……周年就労と年間を通じての収益確保を図るために、水稲育苗ハウスを活用して花き栽培を行っている。また、平成17年(2005)に直売所を開設し販売部門の充実をはかってきた。さらに、平成24年(2012)に米粉事業部を立ち上げ、米粉パンを製造するとともに、米粉パン生地の全国的なサプライチェーンを構築するFC事業を展開し、いずれも順調に売上を伸ばし、水稲部門と並んで経営の柱となっている。
 普及性と今後の発展方向……地域の担い手と連携しながら、農地を預かり規模拡大し、良食昧米の新たな需要を増大させていくと共に付加価値を高め適正な価格で取引を行っていく。また、若者の雇用を創出し、利益を地域に還元していくことで地域の賑わいを作り、農業生産を通して地域になくてはならない会社として、地域とともに成長する、次世代も「明るく元気に賑やかな地域社会の創造に貢献して行く」ことを目指している。

〈日本農林漁業振興会会長賞 畜産部門〉
△広島県酪農業協同組合(広島県三次市、温泉川寛明代表、第10回全国自給飼料生産コンクール)
稲発酵粗飼料を中核として耕畜連携体制を実現したTMRセンター(技術・圃場《飼料生産部門》)
 平成6年(1994)4月1日に県内18の酪農専門農協が合併して設立され、平成26年(2014)に「みわTMRセンター」を拡大整備した。当初20.3haであったWCS(ホールクロップサイレージ=発酵性粗飼料)用イネの栽培面積は令和4年度(2022)に144ha(704筆)にまで拡大し、酪農家44戸に主にWCS用イネ混合TMR(Total Mixed Ration=混合完全飼料)を供給している。
 高品質な極短穂型WCS用イネの安定生産……①WCS用イネを栽培する営農集団に共通の栽培マニュアルで統一的な指導を行い、営農集団間で差の無い高品質WCS用イネの安定生産体制を確立した。その際、営農集団ごとに収穫物の飼料分析を行い、水田の肥培管理に活用した。②籾が少なく消化性の高い極短穂型WCS用イネ品種に栽培を集約したことで、栽培暦の統一、高品質WCS用イネの安定生産、均質なTMR調製が可能となった。
 耕畜連携による自給粗飼料の確保と高品質TMRによる良質生乳生産……①県内4分の1の耕種農家と連携してWCS用イネを栽培し、粗飼料の40%を自給し、圧縮梱包機を用いた高品質発酵TMRを㎏単価49円で酪農家に供給している。②栄養的に均質な発酵TMRを給与メニューと共に酪農家に提供することで飼養管理の平準化が図られ、県平均よりも良質の生乳生産を夏場も含めて達成している。
 堆肥還元による地域資源循環と環境保全の達成……酪農家の堆肥を、多肥が可能な極短穂型WCS用イネ栽培水田や野菜農家に提供することで、地域資源循環型生産システムを構築している。その結果、耕作放棄地や糞尿の捨て場的な草地が解消し地域の環境保全が達成されている。
 普及性と今後の発展方向……WCS用イネを用いるTMRセンターを核とした耕種農家と酪農家の連携は、酪農家の経営改善と資源循環型農業を達成しており、都府県の中山間地のロールモデルとなる。今後、参画する両経営体を全県に拡大予定であり、さらなる発展が期待できる。

《女性の活躍》
〈日本農林漁業振興会会長賞 農産・蚕糸部門〉

△㈱穂々笑ファーム(岡山県赤磐市、堀内由希子代表、第63 回岡山県農林漁業近代化表彰)
女性農業経営者が持続可能な中山間地農業を実現(経営《水稲》)
 酒米「雄町」の生産を中心に、冬季の雇用確保のため、加工・業務用キャベツの栽培を行い、水田の有効活用に努めている。両作目でGAP認証を取得するとともに、防除用ドローンの導入による軽労化を図っている。
 中山間地域の持続的生産活動……堀内氏は非農家からの参入であったが、自身の持つコミュニケーション能力を活かし、地域の信頼を得て農地を拡大・集約した。冬季の水田ではキャベツや白菜の栽培を行い、農業機械の汎用利用や農地の有効利用に努めるとともに、年間を通じた雇用を創出している。防除用ドローンの導入により、高齢農家からの防除も受託し営農継続を支援している。
 酒米によるブランド化……堀内氏は、JA晴れの国岡山赤坂特産雄町米研究会の副会長として、酒米でのグローバルGAP認証を取得し、食品安全・労働環境・環境保全に配慮した持続的生産活動を牽引するとともに、酒米で新たな日本酒を開発しブランド化を図っている。
 女性の活躍……堀内氏は、女性の雇用を契機に、事務所のトイレの改修やオートマチック仕様のトラックを導入するなど女性も働きやすい環境を整備し、中山間地域農業を支える岡山県内で類のない女性の大規模稲作経営者として活躍している。また、県農業普及指導センターと連携して地域の新規就農者に助言を行うなど、地域の指導的立場としても活躍している。
 普及性と今後の発展方向……中山間地域農業を支える農業経営体として地域からも期待されており、機械の汎用利用による省力化や防除用ドローンの導入など中山間地域に適するスマート農業のあり方を追及し、地域のトップリーダーとして、関係各機関と連携しながら、未来ビジョンをもち持続的に地域農業を支えていく方針である。

ごはん彩々

こだわりの特別栽培米

カテゴリー別最新ニュース

商品・事業
一覧
施策・政策
一覧
調査・研究
一覧
組織と人事
一覧
予算と計画
一覧
決算と業績
一覧
事件・事故
一覧